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「翳る夏、終着。」背景ストーリー公開!!

  • 執筆者の写真: p HaLto
    p HaLto
  • 8月30日
  • 読了時間: 3分

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翳る夏、終着。


••┈┈┈┈┈┈┈••


俺の名前は、藤岡信世。


気づけば三十路はとうに過ぎている。


仕事に追われる日々で、いつしか生きるために仕事をするのか、仕事をするために生きているのかすら分からなくなっていた。


自分がやらなければ。

そんな使命感と少しばかりの満足感から休みなんてずっと取っていなかった。


ある日、ふと母親からの連絡が目に入った。


「久しく帰ってないな。」


意を決して上司に有給を申請した。


内心引き止められることを期待していたが、思いの外あっさり有給許可が出た。


ああ、自分がいなくてもいいんだ。

どこか寂しい気持ちとともに、数年ぶりの故郷へと向かった。



••┈┈┈┈┈┈┈••



車窓から見える木々、川、そして夕日。


「変わらないな。」


ふと零れた言葉の中には安心と嫌悪感が混じっていた。


昔、地元で尺八奏者になるという夢があった。


でも、結局誰も自分の演奏を認めてくれなかった。

あんなに情熱を注いでいたのに。


尺八、音楽の楽しさなんて少しも感じなくなっていた。


俺は夢とともに尺八を捨てた。


だからもうここは居場所じゃない。


変わらぬ風景はそんな夢を諦めた惨めな自分を嗤っているようで。


そう感じながらも、まだ受け入れてくれるんじゃないかという期待を胸に、玄関を開けた。



••┈┈┈┈┈┈┈••



一人縁側に座り、居間に背をむけている。


両親からは、同級生の佐々木が結婚したことを知らされた。


「あなたはいい人いないの?」


そんな不安と呆れと心配を感じるような視線に耐えられずここに逃げてきた。


木の影がずっと長くまで伸びて、夏の匂いがする。

ふと、どこからか笛の音が聞こえてくる。


「そっか。今日は夏祭りか。」


息が詰まるようなこの場所から逃げるように、吸い寄せられるように夏祭りへと向かった―――


はしゃぐ子供、笑う人達。

眩しいくらいに華やぐ街並みに思わず目を細めた。


ヒーローのお面を被った男の子にあの頃の自分を重ねる。


「結局何者にもなれないまま歳だけを取ってしまった。」


少し進むと、大舞台では三味線と尺八の演奏が行われていた。


夢見ていたあの舞台。

深くに沈めていたはずの想いがふと蘇ってくる。


「情熱だけじゃ、食べていけない。生きていけない。」


そう自分に言い聞かせるように、その場を後にした。



••┈┈┈┈┈┈┈••



笑顔の人達の流れに逆行するように俺は下を向いて歩いていた。


と、その時大きな衝撃とともに歓声があがる。


顔を上げる気力もないまま、息が詰まるこの場所から逃げるように外れの道へと歩いた。


大通りから1本外れるだけで見違えるほど静かで暗い景色が広がっていた。


ふと、一筋の闇が自分を呼んでいるような気がした。

そこには神社へ続く階段。


吸い込まれるように息を切らしながら階段を登った。


たどり着いた場所からは街が見下ろせる。


さっきまでいたお祭りの光がまるで海のように見えた。


「あ、この海に飛び込めば楽になれるのかな。」


夢はとうに捨てた。

仕事も俺を必要としていなかった。

実家にももう居場所なんてない。


「どこで間違えたのだろうか。」


「次生まれ変わるならもっと上手く……」


空に上がる花火に背を押されるように、真下に広がる光へと飛び込んだ。

 
 
 

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